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AIが台風予報を塗り替え始めた。米国の公式予報を上回ったAIと、いま読むべき「予報円」の正体

台風の進路予報で、AIが米国の公式予報を上回り始めました。1つの台風に1,000通りのシナリオを描くAIの実力と苦手、気象庁の動き、そして予報の「幅」を描いた予報円の読み方まで。いま沖縄の南にある台風第26号と、75年・553個の台風データで読み解きます。

台風の進路予報で、AIが人間の予報官による公式予報を上回り始めています。

米国立ハリケーンセンター(NHC)が2026年3月にまとめた2025年シーズンの検証報告。その中で、Google DeepMindのAIの進路予報は、東太平洋のハリケーンについて2〜5日先で公式予報を上回り、ほかの予報モデルの組み合わせにも勝っていました(NHC)。

2026年8月には、DeepMindがその台風予報AIの成果を科学誌Natureで発表。「3日先の予報が、これまでのモデルの2日先と同じくらい当たる」とし、今年は1つの台風について1,000通りの未来を描いているといいます(Google DeepMind)。

天気予報、特に台風の進路は、いまAIが一番目覚ましい成果を出している分野の一つです。

でも、AIがどれだけ賢くなっても、予報から「幅」は消えません。1,000通りの未来のうち、どれが本当になるかは分からない。その幅を、僕らがいつもニュースで見ている形で描いたものがあります。台風の進路図に並ぶ、あの白い丸です。

実はあの丸、台風の大きさではありません。この記事では、AIが台風予報をどこまで変えたのか、そしてAI時代にこそ読めるようになっておきたい「予報円」の正体を、いま沖縄の南にある台風第26号と、75年分の台風データで読み解きます。

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AIは台風予報をどこまで変えたのか

これまでの天気予報は、スーパーコンピューターで大気の動きを物理の方程式どおりに計算する「数値予報」が主役でした。そこに、過去の膨大な気象データから大気の動き方を学んだAIの予報モデルが加わってきています。

中でも台風の進路は、AIの得意分野です。

  • Google DeepMind:台風などの熱帯低気圧に特化したAIモデルを開発。2025年には米国立ハリケーンセンターの予報を支え、ハリケーン・メリッサの急な発達とジャマイカへの上陸の予測に貢献したとしています。2026年は1つの台風に1,000通りのシナリオを描いています(Google DeepMind)。
  • 米国立ハリケーンセンター(NHC)の検証:2025年の検証報告では、DeepMindのAIの進路予報が、大西洋では短い期間(12〜72時間先)で公式予報をわずかに上回り、東太平洋では2〜5日先で公式予報とほかの予報の組み合わせを上回りました(NHC)。
  • 欧州中期予報センター(ECMWF):2025年に、AIの予報モデルを本番の運用に入れました(ECMWF)。

日本の気象庁も動いています。2026年6月の記者会見で、気象庁長官は「台風のコースというのは非常に得意みたいです」とAIの力を認めたうえで、「ブラックボックスのものを使うのではなく、我々自身で、中身が分かった上で開発をしていきたい」と話しています(気象庁)。

一方で、AIにも苦手があります。大型の台風の強さを弱めに見積もりやすいことや、過去に例のない極端な事例を予測しにくいことが、専門家から指摘されています(松岡大祐氏の講演資料)。NHCの報告でも、強さの予報は、東太平洋の2日先より後でハリケーン専用のモデルに及びませんでした。

進路は得意、強さはまだ苦手。今のAIは、そんな「得意科目がはっきりした新人」なんですよね。

そして、どんなに優秀なAIでも、未来を1本の線で言い当てることはできません。だからDeepMindは1,000通りのシナリオを描くし、気象庁は進路図に「丸」を描く。ここからは、その丸の読み方です。

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予報円の正体を、台風第26号で読み解く

気象庁の台風経路図。沖縄の南にある台風第26号から北東へ、先の日時ほど大きくなる白い点線の予報円が九州・四国の南海上へ並び、右側に実況の詳細が表示されている
2026年9月26日15時45分に気象庁が発表した台風第26号(スリゲ)の経路図(編集部撮影)。最新の進路は、必ず気象庁の台風情報で確認してください。(気象庁「台風情報」)

この記事を書いている2026年9月26日、沖縄の南に台風第26号(スリゲ)がいます。気象庁の経路図を開くと、台風の先に白い点線の丸がいくつも並び、先の日付ほど丸が大きくなっていく。

これを見て「どんどん大きな台風になるんだ……」と思った人、けっこう多いんじゃないでしょうか。

実はこの丸、「予報円」は、台風の大きさとは関係ありません。描かれているのは「予報の自信のなさ」です。

予報円は、「その時刻に、台風の中心が70%の確率でこの円の中に入る」と予想される範囲です(気象庁)。裏を返せば、10回に3回は円の外を通る可能性がある、という設計です。先の時刻ほど予報の幅が大きくなるので、円も大きくなります。

台風第26号の予報で、それを数字にしてみました(2026年9月26日15時45分発表)。

予報の時刻予報円の半径中心気圧最大風速
26日15時(実況)-996hPa25m/s
27日15時(1日後)約95km975hPa35m/s
28日15時(2日後)約155km960hPa40m/s
29日15時(3日後)約220km960hPa40m/s
10月1日15時(5日後)約460km970hPa35m/s

出典:気象庁「台風情報」の発表データをもとにDATA WORLD編集部作成。予報は更新されるため、最新の値は気象庁で確認してください。

予報円の半径は、12時間後の約65kmから5日後の約460kmまで、7倍に広がります。ところが台風の強さの予報は2〜3日後の960hPaがピークで、5日後はむしろ少し弱まる見込みです。丸の大きさと台風の強さは、まったく別の話なんですよね。

台風そのものの大きさは、予報円ではなく「強風域」と「暴風域」で読みます。

  • 強風域:平均風速15m/s以上の風が吹いている、または吹く可能性がある範囲。台風第26号は、この時点で北西側280km、南東側165km
  • 暴風域:平均風速25m/s以上の風が吹いている、または吹く可能性がある範囲
  • 大きさの区分:強風域の半径500km以上で「大型」、800km以上で「超大型」
  • 強さの区分:最大風速33m/s以上で「強い」、44m/s以上で「非常に強い」、54m/s以上で「猛烈な」

(気象庁「台風の大きさと強さ」)

現在の台風中心、強風域と暴風域、将来の中心線と予報円を、現在から未来の順に番号で示した模式図
現在の台風の大きさ(強風域・暴風域)と、将来の中心の予測幅(予報円)は、同じ図に描かれていても別の情報です。位置と大きさは説明用に簡略化しています。(気象庁「台風に関する用語」を基にDATA WORLD編集部作成)

もう一つ、経路図の読み方で大事なのが、予報円の外側を囲む赤い線です。これは「暴風警戒域」。台風の中心が予報円の中を進んだ場合に、暴風域に入るおそれがある範囲です。自分の住む地域が円の外でも、この赤い線の内側なら、風への備えが必要になります。

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データで見る台風。40年で誤差は3分の1、沖縄には75年で553個

AIが来る前から、台風の進路予報は着実に当たるようになってきました。予報円の大きさは、そのまま予報の精度を映しています。

2つ目の数字、ちょっとすごくないですか? 今の「3日先」の予報は、2000年ごろの「翌日」の予報と同じくらい当たっている、ということです。

精度が上がった分、予報円も小さくなってきました。2019年には予報円の半径が平均で約20%小さくなり(気象庁)、2023年には5日先の予報円が最大40%小さくなっています(気象庁)。支えているのは、スーパーコンピューターによる予測の改良と、観測の進化です。気象衛星ひまわりは、日本周辺を2.5分ごとに撮影しています(気象衛星センター)。

ただ、毎年きれいに良くなるわけではありません。2025年は2日先の誤差が過去最良だった一方、5日先は512kmと、2020年以降で最も大きい値でした(気象庁)。進路が読みにくい台風が来た年は、数字にもそれが出ます。

沖縄は、なぜ台風の通り道なのか

もう一つ、DATA WORLDの動画で追いかけたデータがあります。沖縄に近づいた台風の記録です。

気象庁は、台風の中心が沖縄県のいずれかの気象台などから300km以内に入ると「沖縄地方に接近した」と数えています。その記録を1951年から2025年まで足し上げると、553個(気象庁)。平年値(1991〜2020年の平均)では、1年に約7.7個です。

年によって、かなり差もあります。一番多かったのは2004年の15個、一番少なかったのは2009年の3個。同じ沖縄でも、5倍の差があるんですよね。

月別に並べると、台風の「旬」が見えてきます。

月5月6月7月8月9月10月11月
75年間の接近数26個48個113個162個130個62個31個

1951〜2025年に沖縄地方へ接近した台風を月別に集計。4月以前と12月はあわせて8個。2つの月にまたがって接近した台風は両方の月に数えるため、月別の合計は553個より多くなります。出典:気象庁「沖縄地方への台風の接近数」をもとにDATA WORLD編集部で集計。

ピークは8月。そして7〜9月の3か月に、月別の記録の約7割が集中しています。でも注目してほしいのは、10月の62個です。9月末に台風第26号が沖縄の南にいるのは、データで見ればまったく珍しくないわけです。

では、なぜ沖縄なのか。理由は、台風の「生まれる場所」と「流される道」にあります。

台風の多くは、沖縄のはるか南東、フィリピンの東の暖かい海で生まれます。夏になると、台風は太平洋高気圧のまわりを時計回りに回るように北上し、日本に向かってきます。そして9月以降は、南の海から放物線を描くように、日本付近を通る経路が多くなります(気象庁)。

沖縄は、ちょうどその「曲がり角」の手前にある島々です。台風の生まれ故郷から日本へ向かう道の、ど真ん中。いま北東へ向きを変えようとしている台風第26号の予報も、まさにこの放物線の形をしています。

「最近、台風が増えている?」という疑問にも、データで答えておきます。75年を25年ずつに分けて平均すると、1年あたりの接近数は7.3個、7.1個、7.7個。直近の25年がやや多いものの、はっきり増え続けているとまでは言えない、というのが数字から読める範囲です。

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台風が来たら、この順番で開く

予報円の意味が分かったら、次は自分の場所への影響です。台風情報は、次の順番で開くと、全体から自分の予定まで迷わず絞り込めます。

順番開く場所分かること
1気象庁の台風情報台風の位置、強さ、進路の幅(予報円)、風の範囲
2自分の地域の地方気象台(沖縄なら沖縄気象台)風や雨が強まる時間帯、高潮や波の見通し
3キキクル土砂災害、浸水、洪水の危険度が高まっている場所
4住んでいる・滞在している自治体避難情報、避難所の開設
5利用する航空会社・鉄道会社など欠航、運休、再開の見込み

どのページでも、最初に「発表時刻」を確かめます。台風情報は数時間おきに更新されるので、保存した画像やSNSで流れてきた図は、もう古いかもしれません。

気象庁の土砂キキクル画面で、日本地図上に黄色、赤、紫の危険度が表示され、右下に5段階の凡例が置かれている
キキクルは、雨による災害の危険度を地図の色で示します。画像は2026年7月30日の土砂キキクルの表示例を一部トリミングしたもので、現在の状況はリンク先で確認できます。(気象庁「キキクル」)

2026年5月29日からは、防災気象情報の名前も変わりました。大雨、土砂災害、河川の氾濫、高潮の情報に、「レベル3大雨警報」「レベル4土砂災害危険警報」のように警戒レベルの数字が付いています(気象庁)。自治体の避難情報では、レベル3が高齢者等避難、レベル4が避難指示です(内閣府)。数字がそろったので、以前より行動につなげやすくなっています。

EDITOR'S TAKE ── 編集長・小笠原はこう読む

予報円は、「分からない」を正直に描いた地図だ

75年分の台風のデータ、いまの台風第26号の予報、そしてAIの参戦。並べてみると、台風情報は、データとの付き合い方そのものを教えてくれる教材でした。

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「70%」と書ける勇気が、予報を信頼できるものにしている

予報円の一番すごいところは、「10回に3回は外れるかもしれない」と、最初から図に描いてあることだと思います。

一本の線だけを引いて「台風はここを通ります」と言い切った方が、見た目はずっと分かりやすい。でもそれだと、外れたときに誰も備えられません。気象庁は、分からないことを分からないまま、どのくらい分からないのかを丸の大きさで見せている。

これは、AIの予測を仕事で使うときにも、そのまま当てはまる話です。AIが「売上はこうなります」と一つの数字を出してきたら、僕らはまず「どのくらいの幅で?」と聞き返すべきなんですよね。台風の予報円は、不確かさの伝え方のお手本です。

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AIは進路が得意で、強さはまだ苦手。だから人が確率を読む

AIの台風予報は、この数年で本当に強くなりました。3日先の予報が、以前の2日先と同じ精度。1つの台風に1,000通りのシナリオ。数字だけ見ると、もう人の出番はないようにも見えます。

でも、AIは台風の強さを弱めに見積もりやすいし、経験したことのない極端な台風は苦手です。そして何より、1,000通りのシナリオを受け取って、「じゃあ今日、仕事を休むか」「飛行機を振り替えるか」を決めるのは、結局僕ら人間です。

AIが予報を良くするほど、受け取る側に「確率を読む力」が必要になる。予報円が読めることは、AI時代の基礎体力の一つだと思っています。

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75年分のデータが、次の台風の見方を変える

沖縄に75年で553個。8月がピークで、10月にも62個。こうしたデータを一度見ておくだけで、「9月末に台風? まあ、来る時期だよな」と、落ち着いて情報を追えるようになります。

データは、未来をピタリと当てる魔法ではありません。でも、「いつ、どこで、どのくらい起きてきたか」を知っていると、ニュースの見え方が変わる。予報円の丸も、過去の553本の線も、同じことを教えてくれます。

分からないことを、分からないなりに、データで見る。台風の季節は、その練習にぴったりです。

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