カフェを開きたい編集長が、AIに出店を相談してみた。湘南の3駅を国のデータで比べると、人がいちばん多い駅は選ばれず、売上と家賃の上限まで出てきた
いつか海の近くでカフェを開きたい。DATA WORLD編集長の小笠原が、国交省のデータにつながったAIに、ふだんの言葉で3通だけ出店を相談しました。AIは藤沢・辻堂・茅ケ崎の比較レポートを3分あまりで作り、2通目で自分の結論を茅ヶ崎から辻堂に変え、3通目では20席の売上と家賃の上限を数字を変えて試せる画面まで作ってきました。人がいちばん多い藤沢が選ばれなかった理由、AIの試算が公的統計とどこまで合うか、国のデータでは分からないことまで、実際の画面で確かめます。

DATA WORLD編集長の小笠原には、ひそかな夢があります。
いつか、海の近くで小さなカフェを開くこと。
席は20くらい。平日は近所の人がパソコンを開きに来て、休日は散歩帰りの家族がふらっと寄っていく。そんな店です。
「やるなら湘南かな。でも、どの駅がいいんだろう」
候補は、JR東海道線で隣り合う藤沢、辻堂、茅ケ崎の3つ。編集部で聞いてみても、「人がいちばん多い藤沢でしょ」「茅ヶ崎のほうが家賃は手ごろそう」と、意見はばらばらです。
本気で開くなら、開業資金を借りることになります。創業する人に融資をしている国の金融機関、日本政策金融公庫の飲食店向けの創業の手引きを開くと、チェック項目にこんな問いがありました。
「予想売上高の根拠を示すことはできますか?」勘や人の意見は、根拠になりません。要るのは数字です。駅を使う人の数、住んでいる人の年齢とこれから、休日の人出、土地の値段、その場所で店を開けるかどうかの決まり。チェーン店の出店担当なら、こうした数字を地図ソフトで重ねて「商圏」(店に来てくれる人が住む範囲)を調べます。個人がやろうとすると、国のサイトやファイルに散らばった数字を集めるだけで手が止まっていました。
ところが今は、AIに頼めます。国土交通省は2025年11月と2026年2月に、持っているデータにAIから直接話しかけられる窓口を公開しました。AIに聞くと、AIが国のデータを取りに行って、答えにまとめてくれます。
そこで小笠原は、この窓口につないだAIに、ふだんの言葉で相談してみることにしました。最初に送ったのは、この一言だけです。
湘南でカフェを出したいんだけど、藤沢・辻堂・茅ケ崎の駅前ならどこがいいと思う?国交省のデータで比べて、地図つきのレポートにまとめてほしい
AIは3分あまりで地図つきの比較レポートを作り、2通目では自分の結論をひっくり返しました。3通目では、売上と家賃の上限を数字を変えて試せる画面まで作ってきます。小笠原の「カフェを開きたい」は、計画書に書ける「根拠」にどこまで近づいたのか。答えから先に書きます。
小笠原が知りたかった4つのことに、先に答えます
AIが選んだのは、人がいちばん多い藤沢ではなく辻堂。20席なら、家賃は月22万円までが目安です。
Q3いくら売れて、家賃はいくらまで?
どの駅に出す? AIは2通目で答えを変えた
小笠原が最初に決めたいのは、どの駅に出すかです。一言の依頼を送ると、AIは国交省の窓口にどんな道具があるかを探し、「まず3駅の地価・乗降客数です」と動き始めました。

3分21秒後に届いた答えは、「個人経営のカフェなら茅ヶ崎が第一候補」でした。

理由は、駅前の地価が3駅でいちばん安く、駅前の人口も2050年までほぼ横ばいだから。藤沢は人の数こそほかの2駅の約3.5倍ですが、駅前の一等地は1㎡191万円です。
ただ、小笠原が読み返すと、気になる点がありました。人口を見ているのは、駅の真上の250m四方の1区画だけ。交通量や、周りにある施設も見ていません。そこで、人がふつうにやるように2通目を送りました。
交通量とか、近くの保育園や病院・福祉施設の数、年代別のこれからの人口も足して、比べ直してほしい。レポートも更新して
AIは、駅を囲む9区画ずつ(約750m四方)の年代別の人口を取り直し、施設の数と道路の交通量も足しました。約10分後に返ってきた答えの冒頭は、こうです。
比較し直した結果、第一候補を茅ヶ崎から辻堂に変更しています。第1版は、駅の真上にある250m区画1つだけで人口を見ていました。この区画は商業ビルが多く住民が少ないため、数字が偏っていました。周囲の9区画(約750m四方)に広げると、人口の見通しが前回と逆になりました。
| 2025→2050年(駅を囲む約750m四方) | 藤沢 | 辻堂 | 茅ヶ崎 |
|---|---|---|---|
| 総人口 | −1.5% | −3.7% | −5.1% |
| 20〜39歳(カフェの主な客層) | −17% | ±0% | −17% |
| 65歳以上の割合 | 23%→38% | 25%→38% | 25%→39% |
| 保育園・幼稚園(駅から425m以内) | 15 | 11 | 12 |
| 病院・診療所・歯科 | 132 | 52 | 85 |
| 駅前の道路の車の数(1日) | 約1,100台 | 約1万2,000台 | 約6,600台 |
決め手は、カフェの主な客層と見た20〜39歳です。2050年まで20〜39歳が減らないのは、3駅で辻堂だけでした。乗降客数も2011年から21%増えていて、3駅で唯一伸びています。

では、その「20〜39歳が残る」は、本当に店のお客さんにつながるのか。次は、誰が店に来てくれるのかを確かめます。
お客さんは誰? 徒歩10分圏の人と、休日の人出
カフェの商圏は、歩いて来られる範囲が基本です。国交省は都市の評価の手引きで、一般的な徒歩圏を半径800mとしています。不動産の広告の決まりでは徒歩1分を80mと数えるので、ちょうど徒歩10分です。
そこで編集部で、範囲を駅から半径800mに広げて、AIと同じ将来人口のデータを集計し直しました。
| 駅から徒歩10分圏(半径800m) | 藤沢 | 辻堂 | 茅ヶ崎 |
|---|---|---|---|
| 住んでいる人(2025年) | 約3.1万人 | 約2.4万人 | 約2.3万人 |
| 20〜39歳の増減(2025→2050年) | −14% | −4% | −14% |
範囲を変えても、辻堂だけ若い世代の減り方が小さいという結果は同じでした。
これがカフェにとって大事な理由は、総務省の家計調査を見ると分かります。2025年に喫茶店で使ったお金は、世帯主が30代の世帯で年1万7,896円。70歳以上の世帯は7,268円で、約2.5倍の開きがあります(二人以上の世帯の全国平均)。若い世代が残る街は、カフェの売上の土台が細りにくい街です。
もう1つ見たいのが、住んでいる人以外の人出です。国交省は、スマートフォンの位置情報から推計した1km四方ごとの滞在人口を「全国の人流オープンデータ」として公開しています。平日と休日、昼と深夜に分けて、月ごとの平均が分かります。
このデータで3駅の周りを比べると、街の性格がはっきり分かれました。

藤沢は、平日の昼と休日の昼の人出がほぼ同じです。会社や学校に通う人が多い、平日型の街です。辻堂は、休日の昼に平日の1.32倍の人が集まる休日型の街でした。駅の北口に直結する大型の商業施設テラスモール湘南が2011年11月に開業しています。乗降客数が2011年から伸びているのも、この街づくりと重なります。
少し意外だったのは、季節の差がほとんどないことです。辻堂の休日の昼の人出は、8月が約4.8万人、1月が約5.0万人。海の街でも、駅前は夏だけにぎわうわけではありません。
平日は近所の人、休日は買い物や散歩の人。小笠原が思い描いていた2つの客層は、辻堂の人の流れとそのまま重なります。
20席で、いくら売れて、家賃はいくらまで?
駅が決まったら、いよいよ計画書の「売上の根拠」です。小笠原は、同じ会話の続きで3通目を送りました。

答えは「標準ケースで月の売上は約221万円。家賃は月22万円までなら安全圏、上限は約27万円。ただ最初は15〜20万円の物件から探すのがおすすめ」。慎重ケースでも赤字にならない範囲だから、というのが理由です。
AIはレポートに、数字を動かして試せる画面も足してきました。

売上は、席数×回転率(1日に1つの席に座るお客さんの数)×客単価に、テイクアウトを足して出しています。公庫の創業の手引きも、売上予測を「客単価×席数×回転数」で出す例を載せていて、計画書にそのまま写せる型です。そこから原価、人件費、光熱費、内装の返済を引いた残りが、家賃とオーナーの手取りに回るお金です。いちばん面白かったのは、この早見表でした。

平日の回転率が0.5違うだけで、払える家賃は月7万円以上変わります。AIが「一番効くのは回転率です。候補の物件の前で人通りを数えて、回転率の仮定を確かめてください」と念を押していたのは、このためです。
ただ、回転率や客単価、原価率は、AIが「個人経営のカフェの一般的な目安」として置いた仮定です。AI自身も「実際の数字ではありません」と書いています。そこで編集部で、公的な統計に2つの方向から当てはめてみました。

1つ目は、お店の実績からの確かめです。日本政策金融公庫が融資先の喫茶店35社を調べた経営指標(2025年度)では、1席あたりの年間売上の中央値が129万8,000円でした。20席に当てはめると月約216万円。AIの標準ケースの月220.9万円は、ふつうの喫茶店の真ん中あたりという見立てだったことになります。原価率もAIの30%に対して、調査の中央値は約28%で近い数字です。
2つ目は、住む人の財布からの確かめです。家計調査では、関東の二人以上の世帯が2025年に喫茶店で使ったお金は年1万4,296円でした。1人あたりに直すと約5,000円。辻堂の徒歩10分圏の約2.4万人で、年に約1.2億円です。
このお金を、近くのカフェで分け合います。仮に徒歩圏にカフェが10店あれば、住んでいる人の分は1店あたり月約92万円。月221万円に届くには、駅を使う1日約11万人や、休日の買い物客に来てもらう必要があります。駅に近い立地と、休日の人出がやはり大事だと、数字からも分かります。
もう1つ、同じ公庫の調査には厳しい数字も載っていました。35社のうち、黒字で自己資本もプラスの会社は20社。平均の損益分岐点比率は104.6%で、ふつうの喫茶店は、黒字と赤字の境目あたりで回っていることになります。公庫の創業の手引きも「売上高は低め」「経費は多め」に試算するよう勧めています。AIが「最初は家賃15〜20万円の物件から」と言ったのは、慎重すぎる話ではなさそうです。
借りる前に、その住所を1分で下調べ
予算が見えたら、物件です。辻堂駅の北口で気になる空き店舗を見つけた、という想定で、別の会話でこう聞いてみました。
辻堂駅北口のこのへん(35.3422, 139.4470)の空き店舗でカフェをやりたい。借りる前に、用途地域とか災害のリスクとか地価とか、国交省のデータで調べておいて

1分6秒で返ってきた結論は、「用途地域は工業地域だが、カフェを開くことは問題ない。ただし地区計画がかかっているので、借りる前に藤沢市で中身を確認する必要がある」。駅前なのに工業地域というのは、少し意外な結果でした。
災害の区域は、洪水・高潮・津波・土砂のいずれも区域外。地価は、近くの県の地価調査地点が1㎡82万円で、前の年より5.1%上がっていました。AIはここから「賃料の更新で値上げを求められる可能性があるので、契約書の改定の条項を確かめて」と助言しています。
AIが付けてきたリンクを開くと、国の公式の地図で用途地域と地区計画が確かめられます。

借りると決めたあとの手続きも、AIは一般的な知識として並べていました。主なものは次の4つです。
- 保健所の飲食店営業許可
カフェも食品衛生法の営業許可が要ります。辻堂駅のある藤沢市は、市の保健所が窓口です。 - 食品衛生責任者
店ごとに1人決めておく必要があります。講習を受けて資格を取るのが一般的です。 - 消防署への届け出
建物を店として使い始める前に、防火対象物の使用開始の届け出を出します。 - 床面積200㎡を超えるなら用途変更の確認申請
物件を飲食店に変えるとき、200㎡を超えると建築の確認申請が要ります。2019年の法改正で、100㎡から200㎡に引き上げられました。
国のデータで決められること、現地で確かめること
ここまでの計画で、国のデータと公的統計がどこまで使えたかを整理します。
| 計画の段階 | 国のデータ・公的統計で分かったこと | 現地や人に聞いて確かめること |
|---|---|---|
| 駅を選ぶ | 乗降客数と推移、地価、250m四方ごとの将来の年代別の人口 | 駅前の雰囲気、通りごとの人の流れ |
| お客さんを知る | 徒歩10分圏の人口、休日と平日の人出、年代別の喫茶代 | 店の前を歩く人の数、競合のカフェの数と客層 |
| 売上と家賃 | 喫茶店の1席あたり売上、原価率、黒字の会社の割合 | 実際の募集家賃、自分の店の客単価と回転率 |
| 物件を調べる | 用途地域、地区計画の名前、災害の区域、地価 | 地区計画の細かい決まり、内水の浸水の履歴、建物の状態 |
左の列は、これまでなら複数のサイトとファイル、地図ソフトを行き来して集めていた情報です。それが会話を3往復するうちに、1枚の比較レポートと試算の画面にまとまりました。右の列は、不動産会社に聞く、物件の前で人通りを数える、市役所で確かめる、といった、これまでどおりの仕事です。
小笠原の計画書でいえば、「なぜ辻堂か」と「売上の根拠」の土台は、国のデータとAIでそろいました。残るのは、候補の物件の前に立って、平日と休日の人通りを数える週末の仕事です。
AIに任せるときに気をつけたいことも、3つ見つかりました。
- 聞き直すと、答えが深くなる
一言の依頼では、AIは4種類のデータで手早く答えました。項目を足すと8種類を組み合わせ、結論も変わりました。 - 「空の結果」を読み違えることがある
1通目の答えには「津波浸水想定のAPIは結果を返さなかった」とありました。実際は3駅とも想定区域の外で、返すものがなかっただけです。物件の下調べでも、データが返ってこなかった防火地域を「指定なし」と書いていました。 - 表示の数字は、元のデータで確かめる
表の数字はすべて元のデータと一致しましたが、レポートのグラフの見出しで比と増減を取り違えていました。

自分の街で試すには
始めるのに必要なものは、次の4つです。
- APIキーを2つ
不動産情報ライブラリはAPI利用申請のページから申し込みます。国土交通データプラットフォームは、サイトでアカウントを登録するとAPIを使えるようになります。どちらも無償です。 - Python(3.10以上)
2つの窓口は、手元のPCで動かすプログラムとして公開されています。 - MCPに対応したAIアプリ
国交省の手順書は、Claude Desktopでの設定を例にしています。設定ファイルに、窓口の場所とAPIキーを書き込みます。 - 窓口のプログラム
地理空間の窓口とデータプラットフォームの窓口を、GitHubから取ってきます。
頼むときは、ふだんの言葉で大丈夫です。まず一言で比べてもらい、気になる項目を2通目で足し、3通目で売上と家賃を聞く。今回の順番は、出店計画の順番そのままでした。場所は、駅名か住所、分かれば緯度・経度で伝えると、AIが地点を迷いません。
出店計画の「型」に、国のデータがそのまま使えるようになった
辻堂の20席のカフェの計画を立て終えて、残ったのは2つのことでした。
勘で選んでいた駅選びに、数字の根拠が持てる
人の数だけなら藤沢、地価の安さだけなら茅ヶ崎。辻堂が残ったのは、20〜39歳の将来の人口と、休日の人出という、ふだんは目に入りにくい2つの数字を重ねたからでした。
これまでは、出店担当のいる会社がお金と時間をかけてやっていた比べ方です。街を選ぶ、客層を知る、売上と家賃を見積もる、物件を調べる。出店計画の型のほとんどに、国のデータが無料で当てはまるようになったと思います。AIは、その数字集めと重ね合わせの手間をほとんど引き受けてくれます。
AIの試算は、公的統計で1回確かめる
3通目の試算は、画面としてはとても説得力がありました。それでも、回転率や客単価はAIが置いた仮定です。公庫の喫茶店の数字や家計調査に当てはめてみて、初めて「ふつうの喫茶店の真ん中あたりの見立て」だと分かりました。
AIに「ほかの見方は?」「それも足して」と聞き直す。出てきた数字は、公的統計か元のデータで1回確かめる。この2つを習慣にすれば、AIは出店のような大きな判断の、頼れる相談相手になると思います。
SOURCES ── 出典・参考
- 国土交通省『AIを活用した多様な地理空間情報の連携環境を試作・提供!~地理空間MCP Server(α版)の公開~』(2026年2月26日)
- 国土交通省 地理空間情報課『mlit-geospatial-mcp』(GitHub)
- 国土交通データプラットフォーム『mlit-dpf-mcp』(GitHub)
- 国立国会図書館 カレントアウェアネス・ポータル『国土交通省、「国土交通データプラットフォーム」のデータを自然言語で検索・取得できるMCPサーバーを提供開始』(2025年11月19日)
- 国土交通省『「不動産情報ライブラリ」の運用を開始します』(2024年3月1日)
- 国土交通省『国土数値情報 将来推計人口250mメッシュ(令和6年国政局推計)』
- 国土交通省『全国の人流オープンデータ(1kmメッシュ、市区町村単位発地別)』(G空間情報センター)
- 国土交通省『令和3年度 全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)』
- 総務省統計局『家計調査(家計収支編)二人以上の世帯 詳細結果表 2025年』表4-1・表4-6(2026年2月6日公表)
- 日本政策金融公庫『小企業の経営指標調査(2025年度調査)飲食店・宿泊業』喫茶店
- 日本政策金融公庫『飲食業 新たに創業をはじめるみなさまへ 創業の手引+(プラス)』(2018年4月)
- 国土交通省 都市局『都市構造の評価に関するハンドブック』評価指標(2018年7月更新)
- 不動産公正取引協議会連合会『不動産の表示に関する公正競争規約施行規則』
- 住友商事『テラスモール湘南 開業以来初の大規模リニューアル』(2018年1月17日)
- 厚生労働省『営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報』
- 国土交通省『建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)について』
- 不動産情報ライブラリ『API利用申請』
- Anthropic『Donating the Model Context Protocol and establishing the Agentic AI Foundation』(2025年12月9日)


